アメリカ大陸編

世界には、日本の常識が通用しない風呂がある。

アメリカ大陸編

北米・アラスカ地域》
かつてネイティブ・アメリカンには、
入浴するという風呂文化が存在した。

 アラスカから北米にかけて出現した「風呂」は、半地下式の家型、あるいは土饅頭型のサウナです。
 たいていは3坪から6坪程度の大きさだったようで、中央に炉があり、薪を焚いて部屋を熱し、汗をかきます。

カリフォルニア・インディアンのもので、真ん中奥に見える穴の上が入口で、下が出口。
マンダン族のサウナテント。

— はじめに―風呂の分類について

 用途は儀式の際に身を浄めるためだったわけですが、冬場は男たちの寝所としても使われたようです。
 「それが産児制限装置として働いたと言えるかもしれない」と、米国の文献にはあったように記憶していますが、そう意図されて男たちの寝所になったのかどうかは不明です。
 日本も含めほとんどの国で「湯浴み」という行為は、温浴や熱気浴、蒸気浴などという違いはあっても、その起源は、禊ぎや儀式用としてスタートしたのは、ほぼ万国共通であったと言ってよいでしょう。

イラスト下】は、アメリカ西南部のナバホ族のサウナ。小さなテント型で、こちらは半地下式ではなく地上です。
 また、内部で薪を焚くのではなく、外で焼いた石を持ち込んで、水をかけ蒸気で内部を熱しています。この焼石を使う方法は、他の国にもたくさん事例が見られます。

 女性用も別にあったようですが、そちらは主に医療用に使われたとみられています。汗をかいた後は、近くの川に飛び込むなどして冷水浴をします。

 西部劇映画などで、このナバホ族のサウナが画面に登場することもあります。

 アイダホやオレゴン州に住むインディアン・ネッツパース族は、熱湯浴を持つ珍しい部族でした。
 川の近くに池をつくり、焼石を片側に積んだら、川の水を引き込むという方法で、熱い風呂をつくっていました。【イラスト下

 いわゆる熱気浴=サウナがほとんどという中で、「入浴」する風呂文化が北米に有ったことは興味深い限りです。
 この「熱湯」文化が、なぜ北米で根付かなかったのか・・・やはり水の問題が大きかったのだろうか。それとも熱気浴のほうが快適だったのだろうか。

 こうした風呂のほとんどは、白人支配とともに姿を消し、残念ながら現在では見ることがありません。

《中南米地域》
中央アメリカの風呂文化は
マヤ文明まで遡る。

 中米には「テメスカル」という風呂があります。起源はマヤ文明まで遡ります。レンガで造られた小さな家で、外に炉を設けます。

イラスト下】は、アステカの風呂ですが、絵にあるように、一方の壁の外側に炉がつくられています。
 湯も用いられ、中央部に浴槽らしきものがあります。いわゆるサウナと湯室の中間的なものといえます。

 浴室の中に炉をきり、そこで火を焚き石を焼いていました。このメキシコ版蒸気型浴室は、通常生レンガで出来ています。それは、パンを焼くためのオーブンに似ています。文献によれば、最も大きいところで幅およそ8フィート、高さは6フィート程度だったと記されています。
 入口はパン焼き窯のように大きく、簡単に人が這って出入り出来る広さが確保されています。石か生レンガの炉は、入口の反対側ありますが、その大きさは2フィート半程度の四角です。

テメスカルは儀式用というよりも医療用

 中南米で風呂を主に使用したのは女性と病人で、産後とかに用いられたようです。インディアンもそうですし、フィンランドもまたしかり、サウナを医療用―特に女性用に使用したケースは世界中に多く見られます。
 もともとの起源は儀式用だったのでしょうが、中南米ではこのテメスカルが意外と早くから、一般民衆の日常生活に取り入れられたようです。
 テメスカルは、現在も中南米のところどころで、ほぼ昔と同じような構造で使われているようで、小型のものが各家々に有ったりします。TVの中南米旅行記などで、たまにテメスカルを目にすることもあります。
 2003年秋には、メキシコの「フォーシーズンリゾート プンタミタ」に、このテメスカルをつかったスパがオープンする予定です。 残念ながら私には当分ムリそうですが、お金と暇のある方は、ぜひこの究極のトリートメントをご体験いただければと思います。ちなみに5泊6日スパパッケージなんてのも用意されるそうですから。

2004年追補改訂

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